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2014年5月13日火曜日

千葉大学で科学講座の実践

先日、千葉大学の大井恭子先生と加藤徹也先生を中心に実践された千葉大学での中高生向けの科学講座(英語で学ぶ科学と実験)に関する論文を読みました。とても興味深い実践報告なので、ここで紹介したいと思います。

著者の方にも許可をいただきましたので、論文は下記よりダウンロードしてください。

Reexamining the Program "Learning Science and Experiments through English for Junior and Senior High School Students" from a Perspective of CLIL (2014)


ヨーロッパでも、また、日本でも、数学や理科を英語で教えるという授業はあちらこちらで行われるようになってきています。どちらかというと、「英語で教える」ということにとらわれ、形式的になり、「学び」という面がおろそかになる面も否めません。

また、英語という言語面が重視され、語彙や表現を学ぶことに重きが置かれ、日本語で学ぶ内容の英語版という授業になってしまう可能性もあります。

ヨーロッパでいくつか理科の授業を見ました。どれも基本は理科の授業です。理科の先生が英語で教えるという授業です。フィンランドやドイツはバイリンガルが基本です。生徒が分からなければ無理に英語だけを使うことはありません。また、生徒同士は必要に応じて英語や母語を使います。無理はしません。ポイントは、理科の学習だからです。

しかし、理科の教師も英語を使うときに、語彙や表現で工夫をしています。文化的な面も考慮しながら英語を使っています。母語話者とは異なるアプローチです。

オランダやスウェーデンやスペインでは違う状況でした。きっと各先生や生徒によってかなり多様なCLILがあると考えられます。その意味では、日本でも多様だと思います。『日本でのCLILの進展ー2013』で紹介されている事例もそうです。様々なCLILがあってしかるべきだと思います。

というわけで、CLILの授業方法もかなり多様で効果性を測定するのはけっこうむずかしいのですが、千葉大学の実践は、実験的な試みの授業を質的に評価した内容となっていて、興味深いと思いました。

A Science Studio Chiba Science Experiment Course

千葉大学では上記の講座の名称で、「英語で行う早期科学教育プログラム開発」を行っているということです。中学生と高校生の受講者相手に理科の教員が英語で行うプログラムです。正課というわけではありませんが、理科と英語で協同して取り組むという、まさにCLIL的な展開がされています。

そのプログラムで、授業実践をアンケートと観察とインタビューで検証している点が注目されます。アンケートやテストをして効果測定をして評価するのではなく、評価の観点に、Uncovering CLIL (2008)で紹介されているCore features of CLILを使っている点が特徴です。Core features of CLILは、実は私が関わった『CLILー新しい発想の授業』(2011)でも紹介しているもので、実践的なCLIL授業をする際に注意すべきことを示しているので、準備する場合も評価する場合も使えるCLIL授業のガイドラインと言ってもよいかもしれません。『CLILー新しい発想の授業』では手前味噌にもなりますが、かなり実践的なアイディアを掲載してあります。

論文によれば、本実験授業はそれによるチェック項目にほぼ該当しているようです。CLILとしても成功した例と言えるでしょう。さらに、授業観察と参加生徒への事前と事後のアンケートとインタビューが報告されています。少人数のクラスで、理科と英語の教師がかなり準備して取り組んだ授業なので、環境的にも恵まれ、満足度は高くなることはある程度予測がつきますが、今後の日本でのCLILのあり方に一石を投じる内容ではないだろうかと思います。

理科や数学のCLILは、どちらかと言えばやはり学習する内容が重視となります。学習者の興味も言語よりも内容に自然に向かいます。しかし、実験手順や扱う内容の語彙や表現も言語学習として重要な目標です。論文でも、内容の学習においては確かに効果があったが、言語面の学習は定かではなかったとあります。この点はたいへん興味深いと思いました。おそらく指導の中で、理科の教えている内容のディスコースコミュニティの理解の必要性を観察したのではないかと思います。現在、このようなCLIL授業の談話分析は盛んですので、今後言語的にCLIL授業の分析が進むことが期待されます。

しかし、私が思うには、CLILでは、ひょっとすると、言語面の学習は見えにくくてよいのではないかと考えています。学習者は、言語にあまり注意を払わなくても、潜在的に暗黙に(implicit)言語を学んでいる可能性があります。そこがCLILのポイントだとも思います。もちろん、だからと言って、教師もそれでよいとはなりません。研究者としてはその探求を進めるべきですが、教師としては、直感があれば、それを優先すべきでしょう。

英語の習熟度を測定するという言語的な面の評価は、言語を教える側とすれば、文法や語彙が理解できたかどうかという視点になる傾向がありますが、この言語アセスメントの方法は議論のあるところです。私は単にヨーロッパで利用されているCEFRの6レベルか、開発にかかわったCEFR-JやJapan Standardsを利用しています。

CLILのアセスメントは実際まだ未開拓な部分が多いというのが現状です。どの程度まで理解できているかとういう従来の評価測定の考えよりは、ポートフォリオ的な評価が主流で、形成的に考えるほうが妥当だと思っています。しかし、それでも、CLILという授業活動の中で言語的な面の習熟をどう測るかはけっこうむずかしいし、もしそこに焦点を当て過ぎれば、CLILの良さが消えてしまう可能性もあります。さらには、内容の評価・測定も同様です。

そのような観点から、この論文は実験的なCLIL授業の試みですが、授業評価という点でたいへん興味深いのでご紹介します。ますますこのような地道な実践的な研究が積み重なることを期待したいと思っています。

取り急ぎご報告まで。


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