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CLIL SAITAMA(旧名称)

Current Practices and Future Perspectives of Content and Language Integrated Learning (CLIL) in Japan

CLILは、次第に注目を集めています。本サイトは、笹島茂がかかわるCLILの実践やつぶやきを集めたものです。参考にしてください。

CLILアンケート調査


にご協力ください。

2013年1月29日火曜日

CLILの魅力

CLILは以前にも書いたが特別なものではないと思います。魔法のようなアプローチがあると思うのはまちがいです。また、CLILは現在の日本の学校教育ではむずかしいのではないかと考えるは思い込みでしょう。さらには、CLILは次の指導法あるいはアプローチとどう違うのかと考えることはあまり生産的ではないと考えています。

内容重視の指導法
フォーカス・オン・フォーム
イマーション
バイリンガル教育
英語は英語で教える
ESP
イングリッシュ・シャワー
などなど

違いよりも、それぞれの考え方を生かして、より効果的な指導をすればよいのではないでしょうか。

それでもこだわる人がいます。一つ参考にスペインのCLIL事情を述べておきましょう。CLILとイマーションの違いについて、Lasagabaster & Sierrra (2009)は、スペインのCLILの状況を背景として、次のようにその違いを整理しています。

  • CLILはその指導言語を外国語とし、授業という枠組みの中でその言語が使われるが、イマーションは生徒の状況に合わせた言語を使う
  •  CLILの教師はネイティブスピーカーではなく、外国語としての言語を使う
  • CLILをスタートする年齢は、イマーションのように早期でなくてもかまわない
  • CLILの教材はイマーションで使うようにネイティブスピーカーが使う教科書である必要はない
  • CLILの目標は、イマーションが目指すようなネイティブスピーカーの言語能力ではない
  • CLILは、イマーションのように移民のこどもを対象とするものではない
  • CLILは実験的な段階にあることが多い

CLILの最も大きな特徴は、あえて言えば、上記の様々なアプローチがすべて言語に焦点を当てているのに対して、CLILはその名前のとおり、

Content and Language Integrated Learning
科目内容とことばを統合した学習
内容言語統合学習

としている点です。当たり前と言えば当たり前なのですが、CLILというのは、結局シンプルな考えです。日本語にするとなんとなく堅いので、CLIL (クリル)と言っていますが、それが分かりにくさを助長しているのかもしれません。

CLILはmethodologyとして紹介されています。たしかに、CLILには方法論があり、いくつかの指導方法があり、指導技術が必要です。また、大きく3つの目標を設定しています。

内容の学習、ことばの学習、学習スキル

CLIL指導法に関するチェックリストは下記のようになりますが、これらは必ずしもCLILだけのものとは言えません。


多様な視点(multiple focus)
1.        科目内容クラスで外国語学習にアプローチ

2.        外国語クラスで科目内容にアプローチ

3.        いくつかの科目を統合

4.        科目間のテーマやプロジェクトを通して学習をコーディネート

5.        学習プロセスの省察(ふりかえり)を促進

安全で豊かな学習環境
6.        所定の型通りの活動や話題

7.        授業を通じてことばと内容を提示

8.        ことばと内容の両方を試してみることで生徒の自信を築く

9.        教室を学習センターとして使用

10.    オーセンティックな学習教材と環境にアクセス

11.    生徒の学習意識を高める

本物らしさ(authenticity)
12.    生徒に必要なことばの質問をさせる

13.    生徒の興味関心を最大限に引き出す

14.    生徒の学習と生活を常に関連させる

15.    CLILのことば(目標言語)を使う人と交流する機会をつくる

16.    メディアや他の情報源からの最新の教材を使う

意欲的な学習(active learning)
17.    教師より生徒がコミュニケーション

18.    生徒が内容、ことば、学習スキルの成果を示す

19.    生徒が学習成果の到達度を評価する

20.    仲間との共同を好んで行う

21.    生徒同士でことばと内容の意味を考える

22.    教師は進行役に徹する

足場を組む(scaffolding)
23.    生徒の持っている知識、技能、態度、興味、経験を足場とする

24.    生徒の立場に立って情報を再構成する

25.    異なる学習スタイルに対応する

26.    創造的で批判的な思考を培う

27.    生徒に楽をしようとしないで一歩前に出るように促す

協力(co-operation)
28.    CLILの教師とそれぞれの科目の教師との協力で授業を計画する

29.    保護者にもCLILの学習や生徒支援などにかかわってもらう

30.    地域、教育行政、雇用者とかかわる



具体的には、『CLILー新しい発想の授業』を参照してください。しかし、上記のチェックリストにそって授業をしてもうまくいかないでしょう。指導法や技術などに忠実に従う必要はありません。ポイントは、

学ぶ対象が科目内容とことばの両方にあり、それを統合する

ということです。

CLILの魅力は、そのような学習環境を演出するということにあります。




2013年1月22日火曜日

CLILについての懇談会 12月22日実施


昨年末、下記の会を行いました。簡単に報告しておきます。

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CLILについて考える懇談会

日 時:2012年12月22日(土)午後1時~5時
場 所:上智大学 図書館L-821号室
共 催:上智大学国際言語情報研究所 CLIL JAPAN
協 力:JACET 言語教師認知研究会

CLIL (Content and Language Integrated Learning) は、日本でも注目を浴びるようになった学習指導方法である。科目内容と言語を統合する学習のことで、言語指導法から見れば、バイリンガリズム、イマーション、内容重視の言語指導などとほぼ同様のアプローチと言える。CLILはヨーロッパで開発された指導法であり、現在、ヨーロッパの多くの国で実施され、成果をあげている。指導形態や内容は、状況により様々であり、理念も必ずしも一致しているわけではない。日本でも、多くの研究者や教育機関が関心を示し、「CLILとは何か?」「バイリンガル教育とはどう違うのか?」「結局、内容重視の英語教育ではないのか?」など議論が盛んになってきている。そこで、今回、CLILに類似の教育を実践している方、および、CLILに関心を示している方に集まっていただき、日本でのCLILのあり方について懇談会を開催することとした。懇談会の主旨は、CLILの現状を把握し、率直に、自由に、形式張らずに話し合い、日本でCLILをどのように実践することが適切であるかを考えることにある。懇談会の内容は、後日冊子としてまとめて公表する予定である。

司会進行 池田真(上智大学)
趣旨説明 笹島茂(埼玉医科大学)
事例発表 1 埼玉県立和光国際高校(山崎勝、藤澤さとみ)
埼玉県立川越女子高校(佐藤ひな子、鈴木誠)
事例発表 2 千葉県立長生高校(三上正弘)
福岡県立香住丘高校(永末温子、長沼君主(東京外国語大学))
事例発表 3 東海大学付属高輪台高校(関田信生)
埼玉県蓮田市立黒浜西小学校(山野有紀)
日本でのCLILのあり方についての懇談
問題提起 松本茂(立教大学)
まとめ
CLIL JAPAN 立ち上げについて
閉会
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詳細な報告は趣旨説明にあるとおり、きちんとまとめて提示する予定なので、乞うご期待とさせてください。

当日は、過剰な宣伝を避けましたが、たくさんの方が集まり、CLILに対する関心が高いと改めて思いました。たぶん多くの方がCLIL的な実践をされているのだろうと思います。ただ、「CLILとは何なのだろう?」という疑問が相変わらずあると思います。しかし、これはけっこうむずかしい課題です。参加者の期待を裏切るようで申し訳なかったのですが、私から次のように最初に提案させていただきました。

CLILを定義するのはここではやめておきましょう

CLILの定義は大きな課題であることは間違いないのですが、ここではそれをやめて、CLILをどうとらえて、どう実践しているのか、ということを、みなさんで語り合いましょう、ということです。

みなさんのご協力で次につながる懇談ができたように思います。私にとっての大きな収穫は、

CLIL的な英語授業実践は多くの教師と生徒が「おもしろい」と感じているようだ
かなり多くの教師が実践している、あるいは、実践したいと思っているようだ

ということでした。「CLILは可能性がある」と確信しました。

しかし、それとともに、CLIL実践にはたくさんの壁があることも理解しました。簡単に言えば、

現実のカリキュラムの枠組やスタッフではむずかしいのではないか?
具体的にどうすればよいのか?
私が教えたい授業はCLILなのか?
科目の知識がなければ教えられないのではないか?
英語で授業をしても生徒が分からないのではないか?
などなど

結局、元に戻って、

CLILとは何か?

となってしまうかもしれません。

しかし、ちょっと考え方を変えたらどうでしょうか?CLILという指導法をある枠組みのもとに推進することが目的ではありません。生徒により効果的な学習の機会を提供するにはどうしたらよいのか、という観点で考えればよいのではないでしょうか?それがCLILであろうがなかろうがかまいません。私の場合は、CLIL的なことを始めたら学生の反応がよかったということであり、同僚もおもしろいと考えたということです。多少の問題はありますが、実際の授業のやり方はどうかという問題はありますが、考え方を変えるとちょっと授業が変わります。

歴史的に言えば、岡倉由三郎の『英語教育』(1911)から始まる教養か実用かという議論があります。いまだに結論が出ていません。また、訳読法、オーラルメソッド、オーラルアプローチ、コミュニカティブアプローチなどなど、多くの指導法があります。日本のコミュニケーションを重視した指導法は、必ずしも欧米のアプローチとは異なります。「英語で授業をすること」と言っても、その意味は適当に解釈されます。高校の新しい教科書「コミュニケーション」も、教師の心持ちが変わらないかぎり変わらないでしょう。

CLILに関して研究する場合は別ですが、実践する場合には、それほどCLILという指導理念に限定して行う必要はないと考えています。

私は、言語教師認知(language teacher cognition)ということを研究しています。言語を教師の教えることに対する信念(ビリーフ)や知識を探求することです。その研究を通じて、日本の英語の教師にはある思い込みがある可能性があると考えだしました。それを変えるきっかけとなるのがCLILではないかと思っています。

さて、話が横に逸れました。戻りましょう。懇談会では、高校の実践報告が多く、高校ではCLILは可能性があると思いました。小学校も外国語活動の枠で行けると思いました。当日参加していただいた方から英会話学校などでも有効であると思いました。大学はもちろんのことですが、今後、CLIL的な英語教育は進むと実感しました。当日お忙しい中参加していただいた文部科学省初等中等教育局国際教育課からも前向きなコメントをいただきました。課題は、中学校でどのようにCLILを推進するかです。

松本茂先生から、「CLILはコミュニケーションという関係性に変化をもたらす可能性がある」という趣旨の提言をいただきました。私もそう思います。

さいごに、池田先生が、CLIL JAPAN を立ち上げました。上智大学を中心に大きな動きとなることを期待します。CLIL SAITAMA は細々とやります。






2013年1月21日月曜日

CLILの事例3(イタリア)


確かなことはわかりませんが、イタリアの英語教育自体あまり注目されることはないようです。ヨーロッパ全体からすればイタリア人は相対的に英語は得意ではないし、フランス人同様自分たちのことばに誇りを持ち、相手がイタリア語を話すことを望んでいるようです。実際、個人的な経験では、たしかに英語を話す人はそれほど多くないように思います。また、小学校から英語は教えられていますが、学校での英語授業も必ずしもコミュニケーション重視の指導ではなく、文法などを中心とした英語指導も多いようですが、日本と比べると、英語はやはり実践的に教えられる傾向にあります。

CLILに限らず、普通の英語の授業も見てきましたが、英語で授業をする(英語で授業をすればいいという訳ではありませんが)教師は、中等教育には多いと思います。生徒もそれほど英語が話せる訳ではないようですが、意識を持っている生徒はかなり話せるようになっています。私が出会った生徒は様々でした。

CLILに関しては、早期の段階で取り入れている国が多いにもかかわらず、イタリアでは政策的にはそのようにはなっていません。CEFRは徐々に浸透し、ELPも取り入れられていますが、小学校では一部の学校や教師によってCLILは推進されていますが、多くの小学校ではそうはなっていません。小学校の先生に英語の研修を実施したりしていますが、私が見た小学校の先生を対象とする英語研修の様子を見ると、日本の小学校の外国語活動の導入の頃と似たり寄ったりで、たいへんそうでした。実際に小学校の英語は、ある程度英語ができる人によって教えられているようです。CLILが小学校などで普及していない理由はその点にもあるように思います。

私がイタリアを訪れ、学校をはじめて訪問したのは2009年でミラノの学校です。インターナショナルスクール、普通の高校、中学校、小学校で授業を見ました。その後、何度か訪れるようになって、授業をいくつか見ましたが、実は、CLILという授業はそれほどたくさん見ている訳ではありません。CLILはごく一部の熱心な先生たちによって、プロジェクトとして五月雨式に行われていました。CLILに取り組んでいる教師の人たちと会い、実践の様子や教材などを見せてもらいました。また、CLILではない授業であっても、CLILのことを知っていて、CLIL的なアプローチをしている教師の授業も見せてもらいました。シェイクスピアのリア王の題材を映画を使って教えていました。職業高校の高学年の授業でしたが、生徒の英語力も高く、面白い内容でした。その学校では、同僚の数学の先生がCLILの授業をしていましたが、プロジェクトが終わり、授業は中断していたようです。授業参観はできませんでした。学校としてCLILを取り組むというよりは、個々の関心のある教師がCLILを断片的に取り入れて実施しているというのが現状のようです。

『CLILー新しい発想の授業』の中で扱った学校や先生のことは、ここでは触れないことにしますが、そこでも述べたようにミラノでは、Gisella Langeという人が推進役です。しかし、残念なことに、スペインなどと違い、政策的なサポートが当時はなかったようです。最近になり政策的に後押しがあり、2013年度より、イタリア全体で、高校や職業学校でCLILを実施するとなったようです。正確には理解していませんが、高校の少なくとも1科目は外国語で教えるということがカリキュラムで規定されたようです。どの程度、また、どのように実施されるかは、ご存知の方がいれば教えていただきたいと思っています。

おそらく英語などを中心とした外国語が大学や仕事で必要になっている実態に追随することが社会的に要求され、他のヨーロッパ諸国でのCEFR, ELP, CLILなどの言語教育の実践に刺激され、ようやくスタートしたと言ってよいでしょう。数年前から、そのような動きがあることを聞いていました。今後が楽しみです。しかし、実態として、教員養成や教員研修で科目の教師の外国語(英語)力を高める必要があります。その素地がイタリアでは欠けているので、そう簡単には進まないと思います。現状では、教育政策も教員研修も決して望ましい状況ではなく、英語教育も教員養成も研修もそれほど充実しているわけではないようです。都市部では移民の子供も多く、決してよい教育環境で授業が行われているわけではありません。学校や先生による指導方法にも格差があります。

あるごく普通の小学校と中学校を訪れたことがあります。たいへんよい学校で、英語授業などを参観させてもらいました。また、そこの英語の先生たちとも話すことができました。しかし、小学校や中学校の多くの先生たちは英語があまりできませんでした。当然、生徒もそれほどできませんが、中学校の高学年になれば、けっこうできます。日本ととても似ていますが、中学校ではフランス語も教えられていて、フランスからの言語アシスタントの人がそのときにはいました。フランス語の先生が熱心でフランス語学習のプロジェクトを推進していて、遠足などもフランスに行くようです。考えてみれば、イタリア語とフランス語はラテン系のことばでそれほど難しくないのでしょう。しかし、この学校ではCLILはやっていません。小学校では英語だけで、教科書にそって英語は教えられていました。先生も英語だけで授業をしているわけではありません。

私が訪問した学校は、ミラノとローマだけなので、実態はよく分かりません。しかし、どちらの学校にも、イタリア語を母語としない生徒は多く、文化的にも学校教育がむずかしい面もあるようです。このような状況は、他の多くのヨーロッパの都市と似ていますが、やはりイタリアの文化と伝統は強いものがあります。その点を反映して、イタリア型のCLILは進んでいます。

日本は、イタリアの言語教育状況に似ている面があります。たとえば、クラスが固定化していて、教科の先生が教室に足を運び、教えることが多いようです。そのために、プロジェクターなどの設備がそれほど整備されていないことが多く、スマートボードなどが頻繁に使える教室環境にないようです。また、生徒はそれほど英語や外国語を話す必要性を感じていないことが多く、教師も英語を指導される環境になかった訳です。それでも、2013年度からCLILの導入を決定したということは、日本で言えば、Super Science High Schoolなどの構想と似ているかもしれません。英語は、イタリアの子供たちにとっても必要な言語となっています。大学まで進んだり、仕事をする場合にも、英語は、いや英語だけではなく、その他の言語も重要になっています。その点に注目して、CLILを高校でスタートすることは、おもしろい展開があると考えられます。

私は、日本でも同様の発想で、CLILを取り入れてみてはどうかと考えています。というのは、小学校での外国語活動には、様々に批判があり、ヨーロッパのスペインなどのようにCLILを導入することは、むずかしいと思います。クラスサイズや教員研修でも限界があり、教師の仕事量からもむずかしい可能性があると思っています。現在の「外国語活動」の中でCLIL的なことを取り入れる程度で現状ではよいのではないかと思っています。

それを受けて、中学校でも、CLIL的な英語授業をすることを提案したいと思っています。しかし、あくまでも、ここでは英語の基礎を指導することが大切です。ポイントは、科目内容と少しずつ擦り合せることです。英語の中で音楽的な内容を取り上げていれば、音楽の教科とのコラボを考え、そこで英語がどう使われているのかを、学習者自身に考えさせることが大切だと思っています。教師はそれをサポートするようにして、授業では間接的にアプローチする。そのように考えれば、それほどカリキュラムを圧迫することはないのではないかと考えています。

高校は、CLILが可能です。英語力がある程度身に付いている生徒、たとえば、CEFRでB1程度になっている生徒には、CLILは動機付けになり、大学教育との連携にも効果的です。また、職業(専門)高校などでのアプローチは、CLILは最適です。科目内容を教えている先生とのティームティーチングあるいは科目内容の先生の英語力に応じて、CLIL教員研修を実施し、英語で科目を教えるようにする。

ここでのポイントは、科目内容を教える教師(英語教師も)の教え方に関する考え方を変えることです。英語ができるからと言って英語で教えられるという訳ではありません。CLIL のポイントはそこにあります。